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第8回 一期一絵展 出品に寄せて

 

8回 一期一絵展 出品に寄せて

 

 

 

2023年4月 第8回一期一絵展 タイトルは、

 

A part of relationship, now and here MEDIA 

 

WAGNER Parsifal (ワーグナーパルジファル」)

ジョルジュ・ロスグロス「花の騎士」_responseより

 

草庵の囲ひあると ある限り 蕣はひつかせて朝な朝なのたのしみに

ある日 家主なる人の使して 杉垣枯れなんとて尽くそを引かせたる

誠に悲しく浮世のさまなりける

 

朝顔の 引き捨てられし 莟かな (明治27年 正岡子規

 

からはじまったあるささやき

 

 

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日々の書画の合間に先人の俳句を読み、感じたことを‘連歌‘ のつもりで真似事などしている。

 

ある日、所以を読んで続く 正岡子規の俳句をあじわった。

 

 

 

なんと可哀想なと思い、小さなキャンバスにアクリル絵具のメディウム、スーパージェッソを使って、子規の詠んだ朝顔の蕾をレリーフのように立体的に作ってみた。

盛り上がってはいるが、キャンバスと蕾の間に「ひつかせ」感がなく、かといって独立感もない。

 

「そんなにナイーブなのか」といったような声を、SNSの英文で読んだ。

ここには遠く、文化カルチャーの違いが感じられ、やはり日本の感性とは違うのだなと一人納得し、しばらく考えはそのままにしていた。

 

 

 

「花の騎士」

Le Chevalier aux fleurs

 

 

ある日、絵画と感想と作品を並走させた本を手にした。

 

その本のほぼ末尾に、ワーグナーのオペラ「パルジファル」が上演された頃の、ヨーロッパ中をあげた熱狂、それを観に行ったフランスの画家ジュルジュ・ロスグロスが「花の騎士」を仕上げたと紹介されていた。

 

ワーグナーの最後のオペラ「パルジファル」。

キリスト教騎士団の王アンフォルスの傷を癒せるのは 純粋な愚者だけ。

「花の騎士」は、オペラ「パルジファル」に対する画家ジョルジュの応答で、高さ230㎝、幅370㎝越えという大作である。

絵画のパルジファルの周りには魔法の乙女、花の乙女たちが取り巻いている。

彼の鎧はそれらを映す鏡のように描かれている。

そして蔓薔薇や朝顔が花を咲かせ、朝顔は甲冑に蔓を延ばしている。

 

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絵の中の朝顔は、いくつかの花が咲いていると思っていた。

が、本の中にはさらなる記述があった。

朝顔は雑種で、園芸本によっては庭に生えたら引ぬけ とあるくらいだ、と。

江戸時代に「変化朝顔」というのが流行って、現在見かける朝顔は品種改良された別物だと。

ジョルジュ・ロスグロスが絵を描いた当時、変化朝顔が海を渡って、画家の手元にあっても不思議はないと。

 

パルジファルは魔法の花園にいる。パルジファルの甲冑には蔓薔薇や変化朝顔が絡まっている。

指令を受けたクンドリーとともにいるパルジファルの元に、敵クリングゾールから聖槍が投げ込まれた。

聖槍はパルジファルの頭上で静止した。

 

変化朝顔の生成と オペラの静止した時間の対比。

ジョルジュ・ロスグロスの絵画は、音楽の時間概念に呼応した傑作だ、とあった。

 

思わず「あっ」と唸った。

 

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すると正岡子規が見ていた俳句の朝顔は、妖艶に色を変え咲き続ける一粒の種から生成する変化朝顔ではなかったのか、と。

それを子規は楽しみにして、家主に引き抜かれたことを浮世の悲しみとして詠んだのかと、納得がいったのである。

 

従って、朝顔が引き抜かれて悲しむ、それは同じ品種についての悲しみなのではないのか、

見かけた英文も同品種への感想なのか、relationの謎は続いている。

 

変化朝顔をモチーフに入れたジョルジュの感性は、正岡子規に近いものだったのかもしれないと、

19世紀の謎解きも進行形である。

 

 

参考文献、URL

 

 『子規句集』選者 高浜虚子 岩波書店 2017年11月第28刷

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 『絵画の素』岡崎乾二郎 著 岩波書店 2022年11月第1刷

     オペラ対訳ライブラリー『ワーグナー パルジファル』高辻知義 訳者 音楽之友社 2013年第1刷

 

     オルセー美術館

      https://www.musee-orsay.fr/fr/oeuvres/le-chevalier-aux-fleurs-21819

 

 

20230426   花木 洋子

 

 

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